
昭和44年の日本シリーズ、巨人対阪急。
巨人の2勝1敗で迎えた第4戦は後楽園。
4回裏、3点ビハインドの巨人は
無死1、3塁で打者長嶋を迎えていました。
巨人の川上監督の作戦は「重盗」。
1塁走者の王がスタートを切り、捕手が2塁に送球する間に
3塁走者の土井がホームスチールを行うというものです。
当時、巨人はこの作戦をシーズンでも度々行っており、
阪急側も予想していました。
打者長嶋が空振りして捕手岡村は2塁に送球。
それを見るや土井はホームめがけて走り出しました。
ホームスチールを予測していた送球を受ける2塁手は
王には目もくれず2塁ベースのはるか手前で送球を受け、
すぐさまホームに返球しました。
この年、ベストナインにも選ばれている捕手岡村は
「待ってました」とホームベース上をブロックして返球を受け、
突っ込んだ土井ははね飛ばされてタッチアウトと誰の目にも見えたのです。
ところが球審は「セーフ」のジャッジ。
激高した岡村は球審に詰め寄り退場。
その後に出場した捕手は投球をわざと捕球せず、
球審に当てるという報復をしたのです。
川上監督は土井に聞きます。
「おい、どうなんだ?」
「どうもこうも、岡村が捕球のとき腰が上がったので
左足をねじ込んでベースを踏んでます」。
「はね飛ばされたように見えたが?」
「それは足を入れたままだと捕手がかぶさり
足を折ると思ったので咄嗟に抜いたのです」。
川上監督はすぐにナインを集めました。
「土井はセーフだと言っている。
私は選手の言うことを信じる。
岡村の気持ちは分からなくもないが、
その後に取った阪急の報復は卑劣で許せない。
そんなチームにペナントを渡すわけには行かない。
このシリーズは巨人が絶対勝つぞ!」
アニメ「巨人の星」に出てくる川上監督が
人格者のように描かれているのは演出かと思っていましたが、
実際の川上監督もこういう事が言えたのです。
チームは一丸となり、この試合を逆転勝ちすると
巨人は一気に日本シリーズを制したのでした。
球審のジャッジが正しかったことは
翌日のスポーツ紙の一面の写真が雄弁に語っていました。
いざと言うとき、冷静な判断ができるのが真の勝負師です。
ジャイアンツの9連覇はこの名将の下で成し遂げられました。
勝負師川上哲治さん。93歳でご逝去。
合掌。


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