
仕事の後、雑務を片付けていると
診療所の電話が鳴った。
この時間にかかってくるのは
たいてい昼間拝見した患者さんからの問い合わせが多い。
見慣れない携帯番号だったが
受話器を取った。
高齢の女性だった。
最初はよく聞き取れなかったが
小学校低学年のときの担任の先生からだった。
昨年暮れに保土ヶ谷区の
介護付き有料老人ホームに入られたとのこと。
それまでは自分の診療所から
1キロ足らずの施設に数ヶ月だけだが
入所されていたそうだ。
自分の診療所の看板、広告を
ご覧になって「会いに行けば良かった」と
わざわざ電話を下さったのだ。
御年九十二歳。
転校して入学した自分のことを
細かく憶えていらっしゃることに驚く。
矍鑠とした口調でお話を伺っていると
記憶は半世紀昔に舞い戻った。
途端に両目から
理由もなく涙があふれて
別れの挨拶は声にならなかった。
先生、大丈夫です。
もう教科書をラクガキのマンガで
埋めつくすような真似はしていません。


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